吉野家事件に隠されたマーケティング上の問題 顧客価値とは

公開日:2022年04月28日最新更新日:2024年07月04日堀内香枝

2022年4月、吉野家の当時の常務がマーケティング施策について、非常に不適切な発言で表現した件について、講座の受講生らが発言への抗議と再発防止の対策を求める署名を、吉野家と親会社の吉野家ホールディングス(HD)、早大に郵送した事件がありました。

「吉野家常務「生娘シャブ漬け」発言がマズすぎた訳」
東洋経済オンライン:https://toyokeizai.net/articles/-/582922

ここでは、この事件について、マーケティングの観点から考えてみたいと思います。
その内容を紐解くと、実は大きなマーケティング上の問題が潜んでいます。

差別性・優位性を自ら否定していたというマーケティング戦略上の問題

事件は「女性は男性から高級な美味しいものをご馳走されるようになったら、牛丼は食べなくなる」という認識のもとで、「女性客は戦略的に若いうちから取り込むべきだ」という趣旨の発言が、非常に不適切であった、という内容になります。

表現はともかく、上記の「認識」そのものは、もっともだと感じられる発言と思われるかもしれません。ですが、こういった捉え方をすると、マーケティング戦略を誤ります。

何故でしょうか?

なぜならば、この発言を紐解くと、自ら「吉野家の牛丼は価格勝負の食べ物で、それ以外の価値は持っていない」と言っていることになるからです。

マーケティングとは:顧客に価値を提供し企業収益を生む仕組み
戦略とは:中長期的計画、企業が持続的な成長を目指すための方向性

吉野家は本当に「価格勝負」以外の価値を持っていないのでしょうか?

顧客価値を高める努力が必要

顧客価値(カスタマーバリュー)とは
商品の利用体験から顧客が得られる、顧客にとっての良い作用

確かに、牛丼という商品は、価格にも魅力があります。
しかし、それだけではありません。

私個人的には、吉野家が好きです。
理由は、味が好きだから。そして、牛丼が好きな人向けの「肉だく」メニューを提供してくれているからです。
これは吉野家のユーザーである私個人が、「価格以外の価値」を吉野家に見出している、ということになります。

店に赴くと、店内には一人女性客もかなり頻繁に見受けます。
きっと、その女性客も私と同じように「価格以外の価値」を吉野家に見出しているのではないでしょうか。

このことから、マーケターとしては、「吉野家に女性客を多く取り込むためには何が必要か」という顧客価値を創造し、高めることが肝要になってくるのです。

顧客価値の創造を始めるための「調査・分析」

では、どのように顧客価値を創造すればよいのでしょうか?

その始め方は一言でいうと「調査・分析」を行うことです。
最も身近な方法は、マーケティングの基本フレームワーク(3C分析、5F分析、マーケティングミックス4Pなど)を使い、自分で情報収集し、調査し、情報を整理し、分析し、結論を導出する方法です。

最もシンプルで汎用的に用いられる3C分析に「吉野家」をあてはめて、分析ポイントを整理します。

【3C分析】:吉野家の3C分析のポイント

1. 「Customer(顧客)」

消費者は、外食に対して、あるいは牛丼チェーンに対して、何を期待しているか、どのような付加価値を求めているか。

2. 「Company(自社)」

牛肉、牛丼チェーンの専門家として「吉野家」の運営の中で培ってきた知識やノウハウ、あるいは保有技術の中に、企業の個性と顧客の期待をつなげ、より提供価値を強化できることはあるか、それは具体的に何であるか。

3. 「Competitor(競合)」

競合の外食産業はどのような戦略をたてているか。そして上記1と2の合致する分野には、どのような競合が存在するのか。逆に、競合と競争するのではなく、共創・協業という視点も視野に入れることができるのか。

上記の「3C」等のようなマーケティングの基本フレームワークを用いると、ミーシー(MECE)に、必要な要素を網羅し、かつ重複なく、検討でき効率的です。

ミーシー(MECE)とは
「モレなく、ダブりなく」という意味。
Mutually(お互いに)、Exclusive(重複せず)、Collectively(全体に)、Exhaustive(漏れがない)の頭文字。

まとめ

吉野家常務の問題発言から垣間見えたのは、「間違った思考でマーケティングを実行すると、顧客価値が損なわれ、企業に損失を招くリスクがある」ということです。
正しくマーケティングを実行し、顧客価値を高めるためには、本質を追求することが大切です。
その本質を追求する始め方について、身近にできることとして、3C分析(Customer(顧客・市場)、Company(自社)、Competitor(競合))など、マーケティングの基本フレームワークを適宜組み合わせて用いると効率的に顧客価値創造に向けた課題を設定できます。

戦略を考える立場にいる方、またはそういう立場をこれから目指す方へ

事業戦略を立案する際も、自分の考えを整理する際も効率的に仕事が進む、汎用的なマーケティングの基本フレームワーク。
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女性の感性を活かした調査設計や市場動向の分析により、お客さまの深層心理「感性」の解明を得意とします。コンサルティングファームで食品メーカー、外食産業、エステティック産業、通販企業、冠婚葬祭業、工作機械メーカーなど幅広い業種のマーケティング・コンサルティング業務を経験しました。これまで培った経験を元に、一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)設立に参画し、感性マーケティング『マーケティング解析士』講座カリキュラム策定に携わりました。現在は、『マーケティング解析士』講座の講師活動を行っています。同時に、企業様のマーケティング課題解決のサポート活動を継続しています。