“長崎ちゃんぽん“チェーン「リンガーハット」が勝ち続けられる理由 ~バリューチェーン分析~

公開日:2023年04月25日最新更新日:2023年04月26日堀内香枝

「国産野菜を100%使用している」ことで人気の“長崎ちゃんぽん”チェーン「リンガーハット」は、新型コロナによる行動制限が緩和された今、客足が戻り始め、売上も回復傾向にあります。

バリューチェーン分析というフレームワークを使いながら、「リンガーハット」が提供する“長崎ちゃんぽん”の価値を紐解いてみたいと思います。

        

野菜たっぷりちゃんぽん_リンガーハットジャパン㈱ホームページ「メニュー」より_JMLA(日本マーケティング・リテラシー協会)

        

このようなことを考えている方、探している方に役立ちます。

・利益をより増加させるために事業を俯瞰し調整したい
・事業における各業務の創出価値を見出し、すべてを経由した連鎖価値を把握したい
・商品の付加価値を高めたい
・原価を削減したい

      

価値連鎖 バリューチェーンとは

バリューチェーン(価値連鎖)とは、競争戦略論の第一人者であるマイケル・ポーター氏(アメリカの経営学者、ハーバード・ビジネス・スクール教授)が、著書「競争優位の戦略」(1985年)中で紹介した概念で、さまざまな事業活動が、最終的な価値にどのように貢献するのかを、体系立てて検討する手法です。

(下図)バリューチェーン(価値連鎖)は、「価値創造活動」と「マージン(利益)」から成ります。
「マージン(利益)」=「総価値―価値活動の総コスト」としています。

           

バリューチェーン(価値連鎖)の基本形_出典:「競争優位の戦略」M.E.ポーター著 ダイヤモンド社(1985)よりJMLA(日本マーケティング・リテラシー協会)編集

           

バリューチェーン分析とは

それでは、バリューチェーン分析について説明します。

バリューチェーン(価値連鎖)分析は、顧客に商品が届くまでの様々な事業活動の中で、

  1. どの部分から競争優位に結びつく価値(≒利益)が生み出されているか
  2. どこかに無駄な原価が発生していないか

を分析し、事業の持続的な競争優位性を特定することが目的です。

           

分析ステップ

Step1 事業活動の分類
Step2 各活動から生み出している価値やコストの分析
Step3 持続的な競争優位性の特定

               

【再掲】バリューチェーン(価値連鎖)の基本形_出典:「競争優位の戦略」M.E.ポーター著 ダイヤモンド社(1985)よりJMLA(日本マーケティング・リテラシー協会)編集

           

               

Step1 事業活動の分類

まず、バリューチェーン(価値連鎖)は、企業全体ではなく個々の事業について定義します。

次に、顧客のもとに1つの製品が届くまでに関わる「価値創造活動」を、大きく「主活動」と「支援活動」に分類します。

      

「主活動」をさらに5つ程度に分類します。

  1. 購買物流
  2. 製造
  3. 出荷物流
  4. 販売・マーケティング
  5. サービス

        

「支援活動」をさらに4つ程度に分類します。

  1. 調達活動
  2. 技術開発
  3. 人事・労務管理
  4. 全般管理

    

Step2 各活動から生み出している価値やコストの分析

分類したら、各分類にあてはまる事業活動や活動によって創出している価値、価値を創出するためにかかっているコストを分析します。

       

Step3 持続的な競争優位性の特定

各分類の創造価値とコスト(原価)の連結関係から生み出される価値の質と特徴を見極め、持続的な競争優位性を特定します。

        

        

バリューチェーン分析 “長崎ちゃんぽん“チェーン「リンガーハット」の事例

          

図のインプット情報は、インターネット上に公開されている情報を収集し筆者が編集。

             

             

それでは、バリューチェーンのフレームワークを使いながら、「リンガーハット」が提供する“長崎ちゃんぽん”の価値を紐解いてみましょう。

主活動の5分類は、前項の図「バリューチェーン(価値連鎖)の基本形」をもとに、外食チェーン向けに下記の5分類としました。

         

「主活動」5分類

  1. マーケティング・店舗開発
  2. 仕入れ(購買物流)
  3. 調理(製造)
  4. 料理の提供(出荷物流)
  5. サービス

            

主活動1.マーケティング・店舗開発
  • おいしくて、健康によい“長崎ちゃんぽん”という商品価値を2009年以来ぶらさず継続しています。
  • 具体的には、国産野菜100%を実現し、「おいしい野菜がたっぷり入った、体に良いおいしいちゃんぽん」を提供し続けています。
  • 出店地域の客層に合った3タイプの店舗開発を確立し運営しています。

これらの付加価値づくりを、支援活動である、マーケティング・リサーチ技術や店舗開発技術等の技術開発力、有能な人材の育成等の人事・労務管理等が支援しています。

          

主活動2.仕入れ(購買物流)
  • 国産野菜100%を安定的に調達する不断の努力により、付加価値品質の商品を提供し続けています。
  • 国内全国の産地と契約、もやし自社生産、生産者との関係づくり、輸送システムの構築などにより、調達リードタイム短縮や、原材料の安全性確保、商品提供への安心感を実現するチャレンジを継続して行っています。
  • 仕入れた野菜の洗浄、カット、袋詰めなどの加工作業を自社内で行い、カットする機械も自前でしつらえコスト削減を図りました。
  • また、店舗では、店長の経験や勘による仕入れから、AI技術を導入し、仕入れ精度の向上、食品ロスの削減を図っています。

これらの価値づくりを、支援活動である、品質管理術や生産管理技術等の技術開発力、国内産地との関係性づくりや輸送システムなどの調達活動等が支援しています。

          

主活動3.調理(製造)
  • キッチンは調理がしやすく機械化されており、誰が作っても品質を保持できる仕組みが構築されています。
  • 調理作業がマニュアル化されています。

これらの価値づくりを、支援活動である、調理機器開発や調理の導線設計、調理マニュアル等の技術開発力、調理スタッフの採用や育成等の人事・労務管理/調達活動等が支援しています。

         

主活動4.料理の提供(出荷物流)
  • 国産野菜100%のフラッグシップ商品である「野菜たっぷりちゃんぽん」は、野菜の量が480gも使用される人気商品です。
  • 国産野菜を使うことでかさむコストを、主活動③仕入れ等におけるコスト削減の努力と同時に、消費者にも協力も仰ぎ、メインメニューのちゃんぽんの値段に、地域価格を設けました。
  • 季節や生活行事に合わせた新商品を提供しています。

これらの価値づくりを、支援活動である、商品開発力やコスト上昇対応技術、ホールスタッフ用マニュアル等の技術開発力、ホールスタッフの採用や育成等の人事・労務管理/調達活動等が支援しています。

        

主活動5.サービス
  • ホームページに契約農家や栽培品種の情報や写真を公開しており、「生産者の顔が見える」サービスを継続しています。
  • コロナ禍のあおりを受けた時期に、生産農家の野菜を破棄せず、全店に無償配布し、来店客にプレゼントするなどのサービスを行っています。
  • ちゃんぽんづくり体験教室などの食育活動や、年間を通してさまざまなキャンペーンを実施し、顧客との良好な関係性づくりを継続しています。

これらの価値づくりを、支援活動である、キャンペーンやサービスの企画等の技術開発力/調達活動等が支援しています。

         

          

野菜たっぷりちゃんぽん_リンガーハットジャパン㈱ホームページ「メニュー」より_JMLA(日本マーケティング・リテラシー協会)

                  

「リンガーハット」は、新型コロナ禍のダメージを大きく受けました。しかし、あらゆる顧客に評価されている「国産野菜を100%使用しているという安全性、安心感」という価値をぶらすことなく、さまざまな事業活動を連鎖させ、「美味しい・安全・安心・健康の長崎ちゃんぽん」を顧客へ提供し、競争優位性を持続し続けていることを、バリューチェーンのフレームワークを用いた分析の結果から確認できます。

          

まとめ

バリューチェーン分析は、顧客ニーズの充足やサービス向上という経営目標に向けて、コスト優位を達成する価値連鎖か、差別化/独自性を際立たせる価値連鎖か、さまざまな事業活動の流れの全体最適を図ることに有用です。

バリューチェーン・フレームワーク中の活動分類は、基本形をもとに自社が属する産業分野に合った分類定義をしましょう。

バリューチェーン分析を行うことで、自社事業の持続的な優位性の実現を目指すために、社内のリソースだけでは不十分であることが判明することがあるかもしれません。そのような時は、外部の力を借りましょう。

       

目指す価値づくり・付加価値を高めるために外部を賢く活用しましょう

バリューチェーン分析を行うことによって、

  1. どの部分から競争優位に結びつく価値(≒利益)が生み出されているか
  2. どこかに無駄な原価(コスト)が発生していないか

事業の各業務の流れを俯瞰的に追いながら把握することができます。 

企業が勝ち続けるためには、常に、「コスト優位」あるいは「付加価値の創造」を追求する必要があります。そのために、自社の源泉と外部の力を借りて掛け算で価値を高めたりすることや、強みを見失った時期に強みを再認識させてくれる外部の力は不可欠です。

             

私たちJMLA(日本マーケティング・リテラシー協会)は、企業様の外部の力となり、強みの再認識や付加価値の高い感動商品の企画開発を支援しています。具体的には、常に顧客起点からアプローチします。新規顧客となりうる潜在ターゲットの発見等に有効な人間の「感性」をひも解く独自の分析手法や、新商品開発/新規事業開発のためのメソッド「Neo P7システム」を用いて、企業様の目的の実現をご支援しています。

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女性の感性を活かした調査設計や市場動向の分析により、お客さまの深層心理「感性」の解明を得意とします。コンサルティングファームで食品メーカー、外食産業、エステティック産業、通販企業、冠婚葬祭業、工作機械メーカーなど幅広い業種のマーケティング・コンサルティング業務を経験しました。これまで培った経験を元に、一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)設立に参画し、感性マーケティング『マーケティング解析士』講座カリキュラム策定に携わりました。現在は、『マーケティング解析士』講座の講師活動を行っています。同時に、企業様のマーケティング課題解決のサポート活動を継続しています。