商品企画システム化への道(8)~Neo P7とP7かんたんプランナーの発表
目次
P7からNeo P7へ~2つの疑問
前回(7)サービスへの応用で、P7(ピーナナまたはピーセブン:システマティックな商品企画)の第2パターン(市場創造型の商品企画システム)、
インタビュー調査⇒アイデア発想法⇒アイデア選択法⇒アンケート調査⇒ポジショニング分析⇒コンジョイント分析⇒品質表
が有効と述べました。
実際にはこのプロセスのモノへの適用例も激増し、新規市場を開拓する場合はこの流れが有効であると認識していました。
それでも、2つの大きな疑問
①インタビュー調査は仮説を創出するのに本当に有効なのか?
②新規仮説を効率良く抽出する方法は他にないのか?
をずっと考えていました。
P7からNeo P7へ~①インタビュー調査は仮説を創出するのに本当に有効なのか?
インタビュー調査はP7の当初から第1の手法として重視してきましたし、顧客の率直な意見を聞けるので非常に良かったのですが、特にグループインタビュー手法は次のような問題がありました。
・有能な司会者(モデレーター)が確保できないとうまく進行しません。特に技術色の強い、経験のない会社ですと外部に委託することになりますが、なかなか確保ができません。地方都市ではなおさら困難です。
・条件の厳しい参加者(例えばレストランで週2回以上食事し、1日平均1万歩以上ウォーキングし、***を日常使っていて○月○日午後に時間の空いている22~26歳、未婚の女性会社員など)を集めるには外部の調査会社に委託せねばなりませんが、この費用、時間がWebアンケート調査と同じか、それ以上にかかります。
・1回2時間程度のグループインタビューで数名の意見を聴取しますが、残念ながら多数の仮説が得られる訳ではありありません。特に「わ、すごい!」とか「想像もつかなかった!」というレベルの仮説はなかなか得られにくいものです。新仮説が1つも得られなかった、というケースも経験しました。従って1つのテーマで2~3回実施することが多く、効率が良くない、システマティックではない手法という印象でした。
(注:現在のようにWebでのインタビューやミーティングが普通になってくると、「集まる」ことへの障壁は低くなります(全国どこからでも参加可能)が、逆に対面でない分ますますワイワイと本音を語ることが難しくなります。)
そこで、インタビュー調査は
仮説の発見
という当初の大きな目的から外し、アンケート調査の前の
・「仮説の予備評価、修整」(グループインタビュー)と
・「評価項目の抽出と顧客の評価構造の検証」に徹し、
アンケート調査がより精確に実施できるようにしました。
P7からNeo P7へ~②新規仮説を抽出するもっと良い方法は他にないのか?
インタビュー調査を先頭から外し、新仮説抽出を「アイデア発想法」のみに委ねると「顧客の潜在ニーズ」を追求せずに、ひとりよがりな、自社に都合の良い仮説のみに陥る可能性があります。
そこで熟慮の末、以下の2つの方法をまとめて「仮説発掘法」としてP7の先頭に出し、大量の仮説を創出できるようにし、「P7」も「Neo P7」と改称することにしました。
(1)フォト日記調査
2005年、某自動車会社A社と若い女性向き小型車の産学協同研究を行いました。この時、女子大生の思考や意識を深く探るため、初めて「フォト日記調査」を試みてみました。神田ゼミ生を中心に20名の女子学生に1週間、毎日1スライドのフォト日記を書いてもらいました。
当日の服装(顔から下)、飲食したもの、大学外で行った所、買ったものなどを写真と感想と共に記入してもらいました。最後に自身の生活や考えについてもコメントしてもらいました。
全く未体験のため、正直言って成果に自信があった訳ではありませんでしたが、優秀な学生諸君のおかげで良いまとめを作り、A社を感動させるほどの充実した提案ができました。
その後、数社の事例でこの手法を改良しNeo P7の一翼を担うこととなりました。
ユーザーまたはそれに近い人がリアルな情報を発信してくれ、それに基づいて考案するので、非常に確度の高い仮説が得られます。
時間がかかりますが、本人の積極的な発言に頼るグループインタビューより「本人も気づかないような点、何となく感じているような点」にも着目し、多様なかつ豊富な仮説を得る手法として推奨できます。
(2)仮説発掘アンケート
以前、「アンケート調査の方式で仮説を出せないか?」という疑問から学部生に研究してもらい、それを引き継ぐ形で大学院生の小久保雄介氏(現・成城大学・山形大学講師)に研究してもらって完成したのが「仮説発掘アンケート」です。
学生諸君対象に様々な形式のアンケート調査を実施して、学会発表も数回行い、「答えやすく、かつ質の良い仮説が出る」1ページのフォーマットを完成させました(以下)。
最後の3行に回答者が仮説案を記入するのです。全員が3つ書くとは限りませんが、平均すると2つくらいは出してくれます。50人に依頼すれば、約100件!ゲットできます。
意外なほど簡単で単純な手法、と思いますよね。実際にやってみると、スイスイと書けてしまいます。
「自由にアイデアを出して」というのは何もヒントがないため、最も困難な発想法です。
上記のように適度に刺激を与えれば脳が活性化して働いてくれます。その上、対話形式にしていますから親しみやすく、優しく誘導してくれます。更に、最後の方でヒントとなるアイデアを提示し、「できるかどうかわからないけど」という言葉で心理的な壁を壊しておきます。様々な工夫が作用して、ユーザー自身から潜在ニーズを引き出すことを可能にするのです。
ただ、万能ではありません。気軽に書く分、仮説の質のばらつきが大きく、意味不明なもの、全く不可能なものも多々提出されるので、厳選するのに手間がかかります。これは覚悟しておく必要があります。
P7からNeo P7へ~「仮説発掘法」を導入してP7を一新!
これで手法が完成し、下図左の2013年「神田教授の商品企画ゼミナール」(日科技連出版)で公表したのが下図右のNeo P7です。
「7」という手法数の制約のために、「アイデア選択法」を削除し、アイデア発想法までの中でそれを行うこととし、なかなか活用に至らなかった「AHP(一対比較評価法)」を廃止しました。
1994年の初版P7からここに行きつくまでに、20年近くが経過しましたが、大量の仮説・アイデアを創出し、精密に分析して絞り込み、最適化した企画案を決定する絶妙な流れであり、これ以上のプロセスは世の中にないものと確信しています。
P7かんたんプランナーの開発~旧ソフトウエアの問題点
1996年から用いていたExcelアドインソフト「PLANPARTNER」については前々回(6)に紹介しました。P7では特にポジショニング分析で因子分析と重回帰分析、コンジョイント分析で数量化Ⅰ類という3つの「多変量解析」の手法を使って結果を求め、グラフ化していましたが、これらは通常のExcelでは処理仕切れないため、専用のソフトウェアが必要でした。
PC用の多変量解析ソフトウェアを使っても計算はできますが、手軽に皆さんが使えるものではなく、(不要な手法も多く入っているため)費用が相当にかかる割にムダも多々発生します。そこで開発されたのがPLANPARTNERですが、前々回に書きましたように色々問題があり、改訂を待たずして廃版となりました。
P7かんたんプランナーの開発
そこで、世界中の統計学者が協力して発展しつつあったフリーウェア「R言語」に着目し、2009年3月にRを用いた分析用プログラムを監修書「商品企画のための統計分析~Rによるヒット商品開発手法」(オーム社)で無料公開しました。
その後、2013年の「Neo P7」の発表に向けて、Rを用いた本格的なソフトウェア「P7かんたんプランナー」の開発に進みました。
当時成城大学大学院生の小久保雄介氏(現:成城大学・山形大学講師)と某大学情報工学系学生の中瀬古 渉氏(現IT系企業に勤務)と私の3名で協力し、私と小久保氏が全体のアウトラインを決め、中瀬古氏がRのプログラムを開発しました。
Rコマンダーというメニュー形式(下図)で項目を選択して分析を進め、グラフはビットマップ形式で出力します。分析結果はデータとしても出力されますので、Excelで精緻なグラフに作り直すことも可能です。
Rが統計分析のプログラム集であることと、定性分析は手作業でも可能であることから、内容はアンケート調査以降の次の定量分析に限定しました。
①アンケート調査(スネークプロット、CSポートフォリオ)
②ポジショニング分析(スクリープロット、ポジショニングマップ)
③コンジョイント分析(効用値の算出、組み合わせ効用値の算出)
また、Rが最初から持っている機能を利用すると、クラスター分析も可能です。
P7かんたんプランナーの開発~大きな特長
(1)全て無料で入手し、使用可能としました。これは非常に大きなメリットをもたらしました。学生、中小企業、個人事業者の方々、またP7関係のセミナーでは大歓迎されました。コピー、譲渡も完全に自由です。
(2)スネークプロットやポジショニング分析、コンジョイント分析で層別結果(男女別や年齢別、クラスター別など)を簡単に求めることができるようになりました。これは瞬時に層による違いを発見できるため、絶大な効果を発揮しました。
(3)WindowsやExcelとは独立ため、そのバージョンの影響を受けなくなりました。PLANPARTNERでは、それらのバージョンが変わるとその都度対応のための処理が必要でした。
P7かんたんプランナーの開発~問題点
ただし、問題点もありました。
(1)フリーソフトのため、企業の信頼を獲得するのが難しく、個人的使用に限られることが多くありました。これはRの固有の問題です。
(2)PLANPARTNERがExcelの図表に出力されるのに比すと、ビットマップ出力は修整や変更ができず、使いにくいところや表示が欠けるところもありました。Excelの図への変更は可能ですが、結構厄介でした。
(3)Windows系PCに限られ、Mac系のPCでは使用できませんでした。
(4)使えるデータがCSV形式のテキストファイルに限定されるため、Excelファイルを直接使えませんでした。
P7簡単プランナーの誕生へ
問題点このうち、(3)は特に学生の間でMacユーザーの増大があり、困難を来たしました。
また、Rそのものもどんどん進化し、バージョンアップの必要が生じました。
更に、クラスター分析を頻繁に用いるようになったため、これを取り入れて簡単に使えるようにしたいと考え、再び小久保氏、中瀬古氏と共に全面改修し、2020年11月初め、「P7簡単プランナー」が誕生しました。
(次回に続く)
商品企画の系統的なやり方、5月8日から始まります↓
感動商品を生むためのメソッド『Neo P7』を正確に深く理解するためのカリキュラム構成です。講師は『Neo P7』開発者である神田 範明 名誉教授が担当し、丁寧にわかりやすくお伝えします!
商品企画システム化への道シリーズ
(1)昔は「商品企画」≒「企画書」だった?
(2)ついにP7公表へ
(3)初めての産学協同研究
(4)P7で次々にヒット商品が誕生!「リコー・複写機」「パイオニア・ミニコンポステレオ」
(5)P7でヒット商品が誕生!「日産自動車・X-TRAIL」
(6)P7-2000とPLANPARTNERの発表
(7)2つの研究会でP7活用の拡大
(8)Neo P7とP7かんたんプランナーの発表
商品企画・開発に関してこちらからお気軽にお問合せください。
JMLA 事務局
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