新規事業開発のポイント バリュープロポジション 得意な事業領域で戦う

公開日:2022年10月25日最新更新日:2022年12月02日堀内香枝

東京のある街で、牛乳販売店が始めた「パン屋」が人気だそうです。
そのパン屋さんは、水の代わりに牛乳だけでパン生地を練った食パンを提供して人気になったそうです。
「牛乳販売店だから牛乳だけのパンか。」と表層的にとらえてはいけません。そのお店が何故うまくいったのか、自身の仕事に活かすヒントをみていきたいと思います。
新規事業立ち上げに重要な要素を確かめていきたいと思います。

このようなことを考えている方、探している方に役立ちます。

・新規事業開発の成功事例を探している
・新規事業に携わる際の留意点を考えている
・マーケティングの基礎を復習したいと考えている
・失敗しない新規事業開発のための系統的な方法を探している

         

バリュープロポジション(自社独自の提供価値)で戦うことを考える

        

バリュープロポジションとは
Value Proposition、直訳すると提供価値です。自社独自の提供価値のことを意味します。抽象的ですが、自社の”強み”と近い言葉です。

          

まず考えられたことは、自社の特長・強みです。

これは冒頭に書いたように牛乳販売店ですから、新鮮な牛乳を仕入れられるということです。これは唯一無二の強みですね。

そこから必要なことは、牛乳を使ってどのような新規事業を立ち上げればよいかを考えることです。街の小さな販売店ですから大規模な調査などはできません。しかし、どんなに小さくても企業は責任をもって運営していれば、世の中の変化や顧客の生活などが自然と頭の中に入っています。その頭の中にある顧客の生活の中に自社の得意な要素をどのように提供していけばよいかを考えます。

「事業領域(ドメイン)」は、「誰に」「何を」「どのように」の3つの軸で決めます。

     

ドメイン(事業領域)を定義する3つの軸ー誰に・何を・どのようにー

     

この牛乳販売店オーナーは、そのことを知っていたかどうかは分かりません。
しかし見事に自社の強みを活かした事業領域です。

「誰に」

日頃牛乳を買いに来てくれたり、お届けしているお客様に

「何を」

顧客ニーズ。(お客様が)毎日を健康で楽しく過ごせるための牛乳を使った美味しい食品を

「どのように」

自社の独自能力。実績を活かし、情熱を持って創造・開発を推し進めて”お客様の欲しい”を形にし、既に持っている販売網で提供する

という事業ドメインを見事にデザイン(設計)したのです。その結果が牛乳だけで作った食パンを売ろうということになったのです。

        

しかし簡単にはいかない パーシブド・クオリティ(知覚品質)の実現と維持

しかし、オーナーご自身はパンを作ったことなど皆無でした。そこで人づてでパン職人を雇うことにしました。

運が良いことに、腕が良く前向きな女性パン職人と巡り合えることが出来ました。

さあ、牛乳食パンを売ることが出来るぞと勇んだのですが、世の中そう甘くはありませんでした。

そのパン職人との最初の話し合いで自分の構想を話したところ、一言「無理です。」と言われたそうです。食パンを焼くには水分の調整がとても難しく、牛乳100%など未だ誰もやったことがないということでした。

お客様が、牛乳屋が売るパンなのだから、牛乳の味がしっかり感じられておいしいはずだという認識(パーシブド・クオリティ)を実現出来ない限り、お客様の期待を裏切り、新規事業はうまくいきません。

       

パーシブド・クオリティ(知覚品質)とは

Perceived Quality、直訳すると知覚品質。
知覚とは、五感などの感覚器官を通じて外界からの刺激を受け取り意味づけをする働き。
パーシブド・クオリティ(知覚品質)とは、(企業目線でいうと)ユーザーの感性※に訴えかける品質。機能・性能だけでなく信頼性や雰囲気も含む。(ユーザー目線でいうと)例えば「(食パンが)おいしそう!」、「おいしかった!」、「毎日食べたくなる!」というように、瞬間的な興味関心と持続する興味関心の両方を併せ持つ商品やサービスの良さのこと。

※感性とは、「人間が外界からの刺激を感覚(五感など)で受容し判断・解釈し表現する能力」のこと

      

         

確信を持ったアイデアは信念をもって努力し続けて花を咲かせることが必要

このオーナーが新規事業に成功したポイントがその時に凝縮されています。

パン職人から「無理です。」と言われたときに、このオーナーは妥協せず、かつ信頼をもってパン職人にお願いしたそうです。

「牛乳100%食パンは、絶対にお客様に受け入れられる。だから、何年かかってもいいから、牛乳100%食パンを作ってほしい。」つまり、牛乳パンは、自社独自の価値を提供できる商品だと確信していたのです。バリュープロポジションの考え方そのものです。

そうまで言われたら、プロとして答えなくてはいけないという意識がパン職人に生まれるのは当然です。

ここから二人の努力は約2年ほどかかったそうです。作る方も、雇うほうも信念をもって努力を続けた結果、ふわふわとした、今までの食パンの概念を覆すほどおいしい「牛乳100%食パン」が生まれ、お客様に大好評を得ることが出来たのです。

           

          

新規事業として良いアイデアを思いついても、実現には時間がかかりそうだとか、実際に事業化するのは難しそうだなどと、最初の段階であきらめてしまい、とても良いアイデアが埋もれてしまう事例を時々見聞きします。
新規事業立ち上げに携わる際、壁にぶち当たったときは、このオーナーのことを思い出してください。

           

マーケティングの基礎~新規事業開発まで系統的に学びたい方へ

ただし、ある程度事業規模が大きくなれば、世の中に受け入れられる新規事業を自分の想いだけで立ち上げることは無理でしょう。世の中に、顧客に受け入れられるかの検証作業も必要ですし、事業としての詳細も綿密に詰める必要が出てきます。

そのためには、アイデアを生み出す方法や、事業ドメインの考え方、検証作業のやり方など、系統的な新規事業開発の方法を学ぶと自信を持って取り組めると思います。

新規事業にはマーケティングの基本的な思考は欠かせません。「マーケティングの基礎」を復習したい方はこちらからご覧ください。必ずご自分のお仕事に活かされますよ。

マーケティングの基本『JMLAベーシックパスポート資格講座』
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女性の感性を活かした調査設計や市場動向の分析により、お客さまの深層心理「感性」の解明を得意とします。コンサルティングファームで食品メーカー、外食産業、エステティック産業、通販企業、冠婚葬祭業、工作機械メーカーなど幅広い業種のマーケティング・コンサルティング業務を経験しました。これまで培った経験を元に、一般社団法人 日本マーケティング・リテラシー協会(JMLA)設立に参画し、感性マーケティング『マーケティング解析士』講座カリキュラム策定に携わりました。現在は、『マーケティング解析士』講座の講師活動を行っています。同時に、企業様のマーケティング課題解決のサポート活動を継続しています。