事業戦略に感性分析はなぜ必要か
日本の文化とマーケティング
面白い話を聞いたことがあります。
ある有名なバイオリンづくりの名人が、日本の桧(ひのき)に着目し、桧でバイオリンをつくったそうです。
すると、そのバイオリンの音色は、和風の響きがするというのです。
日本の風土で育ったものは、日本の味がするということでしょう。
桐の箪笥(たんす)、桧の風呂、杉の箱の羊羹(ようかん)、蕎麦をズルズルっとすする音、煎餅をばりばりと噛んで食べる音も、日本人にとっては違和感を感じない、魅力的なものです。しかし、海外の多くの人々にとってはどのように感じるでしょう。
さらに、仏像や法隆寺のような古い建造物になると、時を経てくすんだ木肌を「侘び(わび)、寂び(さび)や枯れた味わい」として、日本人は評価します。
また、日本の『び』には、「美」だけでなく「微」も存在します。不完全なゆえの美しさを『び』として捉えるのです。水墨画の枯れた味、省略の面白さなども共通します。
ビジネス上のルールの曖昧さは問題ですが、文化としての曖昧さは、日本の精神の豊かさの表れともいえます。
そのような日本において、欧米発のマーケティング理論をそのまま当てはめようとしても無理が生じるのは、当たり前のことです。
日本人には、日本人にしか理解できない“感性”があります。その感性によって生活におけるさまざまな事項が判断されているのですから、企業が対応するマーケティングも、日本独自の手法が必要になってくるのが必然です。
理論に当てはめるためにも、日本人の感性を解き明かすことが重要となります。
感性とは感受性の能力
「感性」とは、外界の刺激に応じて、人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)などからなる感覚により、心から生まれた感受性の能力のことです。
言い換えると、観察されている対象物に対し、鑑賞者が感じ取る美しいイメージや不満足感などで、受け取った刺激を判断し表現する一連の能力を「感性」と呼びます。
参考:感性マーケティングとは
ビジネスで対価を生む「感性価値」とは、消費者や生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化される価値のことです。
機能や性能の基本的な価値を超える、人間として(その人が)プラスの方向に感じる主観的な価値が感性価値です。
美しさ、心地良さ、繊細さ、リッチ感などのブランドに含まれる要素や雰囲気といったニュアンスで表現されるソフト的要素が感性価値です。
(醜い、心地悪い、素朴などでも、人のプラスの感動や共感が得られるならば、それは感性価値と呼びます。)
この「感性価値」について、「感性価値創造イニシアティブ」(経済産業省)のなかで、提供される商品・サービスが作り手と使い手の間で「もの語り」というものを通じて、生活者にいかに共感を呼ぶかが図でわかりやすく示されていました。それに加筆修正したものが下記の図です。
感性が経済価値を生む
感性が経済価値を生む、なんとなくわかるようでまだ抽象的ですよね。
具体例で説明します。
ファストフード業界の大手が、価格競争を仕掛けた時期がありました。大手企業はこぞって商品単価を下げました。その結果当然、商品単価を下げて成功した企業と、戦いに敗れて失敗した企業が出ました。
成功した企業は、商品単価を下げたことで客数を伸ばし、売上増大させることに成功しました。
一方、失敗した企業は、商品単価を下げた途端、客数が減少し、売上も激減しました。その後、V字回復を達成し、後の現在は当時より明確な戦略で企業規模を拡大させています。
失敗した企業は、なぜ価格競争で負けたと思いますか?
自社商品の価値を見間違えていたからです。
つまり、感性価値を削ぎ落して売ったためです。
失敗後、自社商品の価値を徹底的に分析し、感性価値が何であるか見つけ出し、商品価値を見直せたことで、商品の単価アップを成功させ、客数も回復・増大させました。
このように価格UPや、利益UPと感性価値は密接に関わっています。
自社の商品価値を見直してみたいという方は、感性マーケティング講座もぜひご覧ください。
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堀内香枝
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