マーケティングとエントロピー増大の法則
解剖学者の養老孟子先生が中央公論に連載されたエッセイの中に、「一方の秩序が、他方の無秩序を引き起こすということ」という『エントロピー増大の法則』の話を分かりやすく紹介された文章を見つけました。
一見、我々マーケッターには無縁のような話ですが、よくよく考えるととても重要なことだと思いましたので、少しお話ししておこうと思います。
目次
サルやイノシシが出没する理由
養老先生が福井に行った際、現地の農家さんに、近年サルやイノシシが人里に出没するのは野犬がいなくなったからだというだという話を聞いたそうです。
一時期、野犬は危険だからということで、たびたび野犬狩りが行われ、野犬がいなくなりました。野犬がいなくなったらサルやイノシシなどの天下になって、人里に出没するようになったというのです。
野犬を駆除し、飼い犬のすべては紐や鎖でつないで自由に動けなくしました。結果一番喜んだのはサルやイノシシでありました。人里の方が食料が多く、しかも美味しいものがあるためです。

昔、明治時代に沖縄でハブや野ネズミ退治のためにマングースを放した話を思い出します。
マングースは捕獲の難しいハブなどは捕食せず、在来種の鳥やトカゲ、国の天然記念物でもあるヤンバルクイナなどを捕食し、生態系に大きな影響を及ぼすようになり、ついにはマングース駆除が行われるようになりました。
野犬の問題は環境問題であり、犬を管理することは大事ですが、その結果、サルやイノシシが農作物を荒らすようになってしまいました。
一方の秩序(野犬の管理)は、他方の無秩序(サルやイノシシが農作物を荒らす)を引き起こしました。
まさに「エントロピー(無秩序・乱雑さ)増大の法則」です。
エントロピー増大の法則とは
エントロピー増大の法則とは
物事は何もせず放置すると無秩序、乱雑、無価値の方向へ動き(自然と)元に戻ることはないことです。
・コーヒーにミルクを入れると、茶色と白色が混ざり合って黄土色になる。そしてその色は自然に戻ることはない。
・芳香剤はその匂いが部屋全体に広まる。そして元には戻らない。
・先生が生徒を整列させても、先生がいなくなれば生徒たちはすぐに自由に動き回る。

自然界、人間社会、宇宙に至るまで、あらゆることが「エントロピー増大の法則」によって、無秩序、乱雑、無価値という悪い方向に動いてしまうように見えます。
しかし、この原理を理解すれば、社会現象でも自然現象でも課題解決の糸口を見つけられるはずです。
前回、「静かな退職」のお話をしましたが、現象に早く気づき、何らかの方法を考え対処すれば解決できることもあります。
マーケティングはエントロピー増大の法則と戦う活動でもある
「物事は何もせず放置すると無秩序、乱雑、無価値の方向へ動き(自然と)元に戻ることはない」法則をマーケティングに置き換えて考えてみます。
「AAA」ブランドの認知度を例にします
テレビ広告を放映していた10年間は「AAA」のブランド認知が上昇しました。認知率が目標に達成したのでテレビ広告を止めました。広告を止めてから10年が経った現在、「AAA」ブランドを記憶している人がいなくなってしまいました。
「AAA」ブランドと同じ業界の競合他社は、テレビ広告を継続して認知度が高まりました。また、新ブランドも発売し積極的に広告を展開しました。これら競合他社の戦略的な動きによって、「AAA」ブランドのユーザーは、他社ブランドへスイッチ(移って)しまっていました。
まさに、「エントロピー増大の法則」(物事は何もせず放置すると無秩序、乱雑、無価値の方向へ動き(自然と)元に戻ることはない)です。

「AAA」のブランド名は架空ですが、話は実際に起きたことです。この問題に気付いたブランド「AAA」は、広告を再開し、商品ラインを拡大させ、認知率を回復させました。エントロピー増大の法則と戦い勝ちました。
日本のマーケットに当てはめる~日本がガラパゴス化にならないように~
日本は国内に1億人という結構巨大なマーケットを持っているため自己完結型の社会が成り立ってきました。さらに、質の良い製品を作り出し海外輸出により外貨も稼いできました。
しかし、仕上がった製品だけでなく技術もグローバル化が加速し、今まで日本の屋台骨を支えてきてくれた多くの日本企業も苦戦しています。
日本のガラパゴス化とは
海に囲まれた島国(日本)は、外の世界と隔離された環境下において独自の基準で最適化され、外国のルールと日本のルールに互換性がないことです。
一方で、インバウンドに目を向けると、日本には多くの外国人旅行客が訪日してくださっています。
日本は、島国という縛りや日本語という縛りを克服し、世界にモノや情報を発信することが求められている時代です。
「エントロピー増大の法則」を思い出すと、インバウンド(外国人旅行客)が増えたから、多くの外国人に日本を知ってもらえているだろう、ならばもう発信しなくても大丈夫と、手を緩めて発信を止めてはだめです。日本の魅力を発信し続けることが大切です。

社会のニーズに応じ続けるとマーケティング成果が出る
日本に多くのインバウンド(外国人旅行客)が訪れてくれていますが、ニーズは変化しています。
最初はモノへの関心が高かったですが、次第に日本人の生活のリアルを体験したいというような体験することへ関心が寄せられています。
その変化を早くキャッチするためには、世の中の動向や、人々の心の動きを観察し適切に把握する必要があります。その動きや変化に気づき対応する力こそマーケティング力です。

正しいマーケティング知識を学び、なおかつその知識を実際に使いこなす力が今まで以上に重要になります。
「エントロピー増大の法則」と戦い、社会のニーズに応じ続けることができるブランドや商品である続けるために頑張りましょう。
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